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目には見えないものをどうやって実感して学ぶか (NPO法人 放射線教育フォーラム主催:令和6年度 第2回勉強会)

 

 2025年3月2日、NPO法人放射線教育フォーラムが主催する「令和6年度第2回勉強会」がオンラインで開催された。放射線を活用した最先端施設の紹介をはじめ、福島第一原子力発電所の事故で放出されてしまった放射性物質の正体に迫る話、教育現場からの報告など、さまざまな角度からの話題提供があった。今回は、その中から放射線教育にかかわる話題をレポートする。

 

■肌感覚をともなった放射線教育

 今回の勉強会では、中学校や高等学校での放射線教育の定着や継続して学習する難しさについての報告があった。2011年の福島第一原子力発電所の事故の前から放射線教育に取り組んできたという理科教員の中山知恵子さん(神奈川大学付属中・高等学校)。これまでの20年以上にわたる活動を振り返りながら、教育現場における放射線教育の課題を示した(演題「放射線教育の理想と現実」)。

 

 中山さんが放射線教育にかかわる独自の取り組みを始めたのは1993年のこと。中学校で放射線をほとんど教えていなかった時期だったが、文部科学省が貸出していた放射線測定器「はかるくん」を借りて、中学1年生の理科の授業で活用した。その背景には「全生徒が実習を通して、身の回りに自然放射線があるということを肌で感じながらその特性を学んでほしい」という思いがあったとのこと。その後、「総合的な学習の時間」で放射線をテーマに選んだり、希望者を募って放射線をテーマにした課題研究活動を展開したりなど、積極的に取り組んだ。

 

 2010年からはJST(科学技術振興機構)からの支援を受けて、活動の幅を広げた。その翌年、東日本大震災による福島第一原子力発電所の事故が発生。これを機に「さまざまなエネルギー関係の課題研究活動に取り組むようになったほか、福島で他校の生徒と交流するようにもなった」と中山さん。2012年の夏には、保護者の同意を得て、福島県立福島高等学校を訪問した。はじめは、不安を覚える生徒もいたが、放射線測定器で線量を測りながら移動していくと、「何ら値が変わらないじゃないか」と気づくようになったという。翌年以降も、福島を訪れて現地で学び、全国から学びにやってきた高校生たちとも交流する活動を展開したとのこと。

 

 

 2014年からは、「日本における原子力発電が社会的にどのような意味をもっているのか」を考えるために、浜岡原子力発電所の見学も始めた。また、岐阜県の瑞浪超深地層研究所も訪問し、放射性廃棄物の地層処分問題について他校の生徒と意見を交換するという活動にも参加。そのほか、火力発電所なども見学して、社会で必要となるエネルギーを得ることについての考えをさらに深めた。

 

 このような活動を精力的に展開した中山さんだが、放射線教育の定着は難しかったという。まず、決められた学習内容が多く、理科の授業で放射線測定器を使って実習をする時間の確保はなかなかできなかったとのこと。機器を借用できる期間が短く、複数のクラスで同時期に実習するのも難しく、教員自身が放射線を学校で学んでいないことから、教科書の内容に触れる程度になりやすいという根本的な問題もあると指摘する。「私が退職したら放射線教育の取り組みはなくなってしまうかもしれない」とも危惧する中山さん。希望者を募って実施する課題研究活動においても継続の難しさがあると語っていた。

 

 質疑応答では、高等学校の「総合的な探究の時間」で放射線をテーマに選ぶ生徒の有無について質問が出た。これに対して中山さんは、事前に放射線について研究する意義を熱心に伝えても、そのことを研究テーマとする生徒がほとんどいなかったというエピソードを紹介。科学技術においては「AIなど情報系が人気」とのことだった。生徒の科学的な関心の変化も、放射線教育の定着の難しさに関係しているようだ。

 

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