2011年3月11日に三陸沖の太平洋を震源とした東北地方太平洋沖地震が発生し、同地震に伴う津波によって、福島第一原子力発電所で原子力事故が起こりました。現在、同原子力発電所では廃炉作業が進められており、放射性物質を含んだ水(「汚染水」)から放射性物質のほとんどを取り除いた「ALPS(アルプス)処理水)」の取り扱いが廃炉作業を進める上で課題となっています。その水の処理と関連して、「トリチウム」という言葉に触れる機会が増えました。この「トリチウム」というものがどのようなものなのか、科学的に理解するためにポイントをまとめました。
2011年に原子力事故を起こした福島第一原子力発電所では、現在、放射性物質によるリスクを減らす廃炉作業が継続的に進められています。 原子炉を冷やすための水や、建屋内に入り込む地下水や雨水に放射性物質が溶け込んだ水を「汚染水」と呼んでいます。 その「汚染水」から、多核種除去設備(ALPS)等と呼ばれる浄化設備でほとんどの放射性物質を取り除き、「トリチウム」以外の放射性物質を、環境放出に関する国の安全基準を満たすまで浄化した水のことを「ALPS(アルプス)処理水」と呼びます。 |
「汚染水」に含まれる放射性物質のうち、トリチウムは、トリチウム水(HTO)として存在しています。トリチウム水は、水(H2O)と化学的な性質がほとんど同じであるため、トリチウム水だけを取り除くことは非常に難しく、ALPS等の浄化設備を通した後の「ALPS処理水」には、処理前の水に含まれていたトリチウムがそのまま、国の安全基準を上回る濃度で残っています。 |
そのALPS処理水や処理途上の水が、原子力発電所構内のタンク(1000基以上)に貯められており、廃炉を進めるにあたって支障となることから、政府は、2021年4月、ALPS処理水については大量の海水で薄め、トリチウムを含めて環境放出に関する国の安全基準を満たしたうえで、海洋に放出する方針を決定しました。 海洋放出にあたっては、環境や人体への影響がないように、ALPS処理水の100倍以上の量の海水で薄め、トリチウムも国の安全基準よりも厳しい基準を満たす濃度にします。薄めた後の水のトリチウム濃度は、WHOが定めた国際的な飲料水の基準よりも下回る値になります。 |
トリチウムは、自然界にも存在するため、太古の地球からトリチウムの量(濃度)がゼロになったことはありません。トリチウムによる被ばくの影響について考えるときは、トリチウムの有無ではなく、その濃度に注目する必要があります。 ALPS処理水の海洋放出に際しては、放出前のトリチウムの濃度をしっかり管理し、放出中は沖合まで数多くの箇所でトリチウムの濃度を測り、その結果は公表されることになっています。また、国際原子力機関IAEAをはじめとする第三者機関によって、安全基準が守られているかを厳しくチェックすることになっています。 |
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