2011年3月11日に三陸沖の太平洋を震源とした東北地方太平洋沖地震が発生し、同地震に伴う津波によって、福島第一原子力発電所で原子力事故が起こりました。現在、同原子力発電所では廃炉作業が進められており、放射性物質を含んだ水(「汚染水」)から放射性物質のほとんどを取り除いた「ALPS(アルプス)処理水)」の取り扱いが廃炉作業を進める上で課題となっています。その水の処理と関連して、「トリチウム」という言葉に触れる機会が増えました。この「トリチウム」というものがどのようなものなのか、科学的に理解するためにポイントをまとめました。
原子は、原子核とそのまわりを回っている電子で構成されています。原子核は、陽子と中性子から構成されており、原子番号である陽子の数によって元素の種類が決まります。原子核の原子番号(陽子)の数が増えるたびに、水素、ヘリウム、リチウムと元素の種類が変わり、例えば原子番号8番の元素は酸素になります。 中性子の数が変わると、元素の種類は変わらず、質量数が異なる同位体というものになります。同位体の中には放射線を出して変化するものがあり、これを「放射性同位体」と呼んでいます。放射線を出さずに変化しない同位体は、「安定同位体」と呼んでいます。 |
水素の原子核には、陽子が1つだけあり、原子番号は1番になります。水素の同位体は、原子核に中性子を持っていて、中性子の数によって、呼び方(名称)が変わります。 例えば、陽子1個と中性子1個の原子は「重水素」、陽子1個と中性子2個の原子は「トリチウム(三重水素)」と呼んでいます。 「水素」と「重水素」は放射線を出さない安定同位体ですが、「トリチウム(三重水素)」は弱い放射線を出す放射性同位体です。 |
トリチウムは自然界に存在しています。宇宙には「宇宙線」と呼ばれる放射線が飛び交っていて、その一部が地球に降り注いでいます。この宇宙線が大気中の窒素や酸素と衝突・反応すると、トリチウムが生まれます。宇宙線は常に地球に降り注いでおり、日々新たなトリチウムが生成されています。 日々生成されるトリチウムの量と、トリチウムが放射線を出してヘリウム-3原子に変わる(詳しくは「トリチウムによる被ばくの人体影響」で説明します)量が釣り合っていることから、自然界のトリチウムの量は、ほぼ一定水準の量となっています。 上空の大気中で生成されたトリチウムは、酸素と反応してトリチウム水となり、雨として地表に降下していきます。私たちの身の回りの雨水や河川、海、そして飲料水の中にも存在しています。 |
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