初の「放射線教材コンテスト」は、選考の結果、「身の回りに放射線や放射線を出すものがあることを自ら学べる模型」を作成した帝京大学の宇田川夏海さんが最優秀賞に選ばれた。このほか、優秀賞、特別賞、入選がそれぞれ選ばれた。受賞者の喜びの声や、審査委員長を務めた帝京大学の鈴木崇彦教授(医療技術学部診療放射線学科)に「第1回開催」の感想を聞いた。
■自ら学べる模型に工夫
最優秀賞を受賞した帝京大学の宇田川夏海さん。写真は「身の回りに放射線や放射線を出すものがあることを自ら学べる模型」の教材。小さい子どもには理解が難しいとされる放射線の存在を、独創的なアイデアで楽しく直感的に理解できる内容であったことが高く評価された。
宇田川さんは、「子どもたちに、とにかく興味を持ってもらえる教材を作ろうと心がけました。模型にするという案はすぐに思いついたのですが、作り始めるととても大変でした。でも今日、小学生や中学生、高校生たちが『何これ』と興味を示してくれて、実際にやって『あーそうなんだ!』と、理解してもらえたときには、がんばったかいがあったと思いました」と喜びを語った。
■「小さいときから正確な知識を」「いじめをなくしたい」
「対象を小学校低学年としたのは、被災した子どものいじめ問題をどうにかできないかという思いがあったからです。被災地の子どもが転校していった先でいじめられたというニュースを知ったとき、その要因の1つは『なんとなく放射線って怖い』というあやふやなイメージが子どもたちの周囲にあるからではないか。だからこそ、放射線について正確な知識を小さいときから身につけてほしいとの思いを持ち、この教材を作成しました。私自身は放射線技師を目指しています。学校を卒業し放射線技師になることができたら、きっと放射線に不安に思っている患者さんにたくさん出会うと思います。そのときに、学校で学んだことだけでなく、今回の活動で調べたことや学んだこと、身に着けたこともプラスして説明できればと思っています」と宇田川さんは語った。
本コンテスト実行委員長の鈴木崇彦教授は「宇田川さんは、教える対象をしっかり決めていて、教える内容や狙いもしっかり定めていました。『誰もが放射線を浴びていること』『場所によって浴びる量が多いところと少ないところがあること』『小学校低学年の児童に教えることで、いじめをなくしていきたい』といった明確な姿勢が高く評価されました。模型の中で放射線を出すところに磁石を埋めるというアイデアも素晴らしかった。小学校低学年の子どもは、どうしても飽きやすいところがあるのですが、この教材なら自分の手を使って探し出すので飽きにくい。学習者が自ら学べるようにしたところも評価されました」と講評した。
■優秀賞、特別賞の受賞者の声
〔優秀賞〕
チーム代表者:茂呂田 元(帝京大学)
教材名:おねんど大学生の放射線を防ぐ実験
コメント:
この教材のアイデアはみんなで考えました。ターゲットが小学生だったので、どうしたら理解してもらえるかを考え、いろいろと工夫をしていきました。ブースに来てくれた小学生たちはみんな笑顔で、やって良かったなと思いました。
〔日本理化学協会特別賞〕
チーム代表者:堀 拳輔(北里大学大学院)
教材名:カプセル化ジェネレーターを用いた半減期計測
コメント:
ジェネレーターを教材用に開発したのはよかったのですが、この装置の仕組みや原理を中学生や高校生でも理解できるように説明するのがとても難しかったです。悩みました。でも今日、中学生からも大変興味も持ってもらうことができました。とれもうれしかったです。
〔全国中学校理科教育研究会特別賞〕
チーム代表者:澤 知里(帝京大学)
教材名:ふき取りマスターの放射線を落とす実験
コメント:
放射線という理解が難しいものを、視覚的な実験を通していかにわかりやすく、理解しやすくするかを意識して教材を作っていきました。今日は、子どもから大人まで、多くの方に『わかりやすかった』と言ってもらえて、とてもうれしかったです。
〔放射線支援サイト“らでぃ”特別賞〕
チーム代表者:新井かおり(帝京大学)
教材名:中学生に向けた人体影響を理解してもらうための教材の作成
コメント:
ドッジボールに着想を得て、放射線を説明するアニメーションを作りたいと思いました。制作にあたっては、先生や友人など多くの人の力を借りました。私1人では作りあげることはできなかったと思います。
■専門家では埋められない溝を学生なら埋められる
鈴木崇彦教授は「最優秀賞以外も、どれも素晴らしかった」と振り返った。学生の放射線教育に挑戦した姿について「学生はアウトプットの機会を与えれば、学んだことを一生懸命に伝えようとするということがよくわかった。放射線教育が必要だと考える世の中に対して、放射線を専門に学んでいる学生たちがそのニーズに応えられるということが証明できたと思う」とその可能性を評価した。
そのうえで「地域の中で放射線教育を実施していく場合には、専門家を招くだけではなく、その地域で放射線を専門に学んでいる学生に話をしてもらうような試みがあってもよいと思う。むしろ、地域の方の立場になってアドバイスをしてもらえるかもしれないし、もっと本音に近いところで話し合うこともできるかもしれない。あるいは、その学生たちが将来に向かってどうしたいのかを語れば、地域の人たちにとっても新たな未来が見えてくるかもしれません」と指摘。「私たち専門家では埋められない溝を、地域内の学生なら埋められることもあるはず。予想以上の手応えでした」と締めくくった。
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