2015年10月27日(火)、福島県いわき市立小名浜第一中学校では、3年生の学級活動での公開授業を実施。いわき明星大学特任教授の石川哲夫氏が「科学的な理解をすすめる放射線教育」と題した講義を行った。
小名浜第一中学校の概要
1947年に開校。福島県浜通り南部にある「いわき市」の最南端に位置する「小名浜」地域の小高い丘の上に建つ。1年生8クラス(特別支援学級1クラス含む)、2年生7クラス、3年生6クラスで、生徒数は約600人。JR常磐線「泉」駅からタクシーで約15分。福島第一原子力発電所からは約50km。
正しい情報、正しい判断、正しい行動ができる人間に。
●小名浜第一中学校 鵜沼淳校長
もともとは理科の教師で、3.11当時は別の中学校にいたという鵜沼氏。「以前からエネルギー教育の一環として放射線教育は行っており、放射線は身のまわりに存在するものという話はしていたが、事故の直後は放射線の値が高く、さすがに不安でした。特に保護者の不安感は大きく、放射線は“ゼロ”にしなければという気分が蔓延していて非常にやりづらかったことを覚えています。ただ、今日講演してくださる石川先生らの測定結果から、それほど値は高くはないと。いわき市は幸い順調に値は下がっていったというのが実感です。その年の夏には市の方針で部活動を再開しました。運動部も安全に気をつけながら、外で活動を始めました」という。
「その後はさらに放射線教育に力を注がなければならないと感じました。この学校に着任して2年目ですが、“正しい情報、正しい判断、正しい行動”ということを常に生徒たちには話しています。ただ怖いと思うのではなく、正しく怖がってほしい。そのためには放射線に関する知識が必要で、今回の公開授業もそのためには非常に有意義だと思っています」と語った。
「科学的な理解をすすめる放射線教育」をテーマに90分
●石川哲夫氏(いわき明星大学特任教授)
5、6校時(90分)を利用して、石川氏は、パワーポイントで作成したスライドをもとに、放射能測定器や霧箱などの実験などを交えながら下記の項目について語った。
1)福島第一原子力発電所事故概要(IAEA報告書)
2)自然界の放射線
3)放射性物質・放射能・放射線の理解
4)アルファ線、ベータ線、ガンマ線の特性
5)ヒトの放射線含有量
6)放射線飛跡観察霧箱装置の仕組み
7)放射線の利用
8)放射線から身を守る三原則
9)今後の廃炉対策
実験や生徒たちのロールプレイイングでは拍手や歓声が・・・
(1)では、なぜ事故が起きたのかをIAEA(国際原子力機関)調査団の報告から説明。最後にエネルギー問題にも触れ、3.11以降主力となっている火力発電の資源はほとんど外国頼みであり、そのために多くの税金が使われていること、隣国中国では原子力発電所を増やしており、やがて世界最大の原発大国になることなどを事実として述べた。
(3)では、生徒にキャッチボールをさせて、放射性物質・放射能・放射線の違いを説明。ピッチャーが放射性物質だとすれば、ボールを投げる力が放射能、ボール(放射線)を受けるキャッチャーが人だと例えた。
(2)と(4)では、サーベイメーターを使って講義を行った。(2)では、スーパーなどで売られている身のまわりの食品を測定。検知音が鳴るが値としては安全で、食品には自然の放射性物質が含まれていることにも触れた。 (4)では、放射線の透過力を測定器で実験。鉄板やコンクリートによって測定器の音がしなくなり、ガンマ線を遮ることができることがわかると会場の生徒たちからは「おーっ」という声とともに拍手が起きた。
(6)では2つの霧箱を作成し、放射線の飛跡を生徒たちに代わる代わる見てもらった。また、それは飛行機雲の生成原理と同じであることも付け加えた。
放射線教育に必要な事柄をすべて盛り込んだような内容だったが、生徒たちを参加させることで飽きさせず、講義を終えた。私情を交えず、事実のみを淡々と語り、最後は「エネルギー問題や、いまだ方法が確立していない廃炉のこれからを決めるのは、君たちなんだよ。だから基礎の知識をしっかり学んで正しい判断ができるようになってほしい」と語りかけた姿が印象的だった。
Copyright © 2013 公益財団法人日本科学技術振興財団