【パネルディスカッション】
■子どもたちが何度も知識を吸い込むような教育
放射線教育に取り組む教育関係者たちによるパネルディスカッションでは「福島県での放射線教育に学ぶ」と題して、この教育の実践で重要となる目的について意見が交わされた。
冒頭、3人の福島県の教育関係者から現状の報告や話題の提供があった。
福島県教育庁義務教育課の白井孝拓指導主事は、理科以外の教科でも放射線を教えることが増えており、教科を横断しながら、知識定着型から問題解決型・探究型の教育活動を実践し、それを他県や世界に発信していくことが大事だと語っていた。
福島県教育庁義務教育課指導主事 白井孝拓さん(写真右)
福島市立松陵中学校の阿部洋己校長からは、福島第一原子力発電所事故から12年が経過して、なぜ放射線について学ぶのかという目的を子どもが明確にもって学習を進める重要性が高まっているとの見解が示された。さらに、福島県相馬市立中村第一中学校の佐藤拓也教諭は、教科を横断して折に触れて放射線を教えることで子どもたちの体に何度も吸い込まれるような学びにしたいとの思いが語られた。
福島県福島市立松陵中学校長 阿部洋己さん 相馬市立向陽中学校 佐藤拓也さん
3人からの話題提供が終わると、発表者を含めた教育関係者6人によるパネルディスカッションが始まった。
東京で理科を教える中学校の教諭が、放射線教育に積極的に取り組んでいる例が多く見られないという印象を語ると、福島県の阿部校長は「福島県内の公立学校では100%の学校で放射線教育が行われているが、授業に対する熱の入り方は同じではないし、その一端が先ほど示した自然放射線に対する正しい知識をもつ生徒が減っていることに出ているのではないか。ここで一度仕切り直しをする必要があるのかもしれない」と現状を伝えた。
白井指導主事も「今、先生たちに、外部の講師を呼んだり、施設に子どもたちを連れていったりすれば『放射線教育をやった』ということにしてしまっているのではないかと問いかけているところだ。放射線教育に対する意識の低下を認識してもらい、目的をもって子どもたちに教えることの重要性を改めて確認することが大事ではないかと考え、研修を進めている」と語った。
阿部校長はさらに「教員が生徒に放射線を学ぶ目的をもたせるように強く意識すると学習効果は上がる」という見解を示し、逆に子どもたちに学ぶ目的をきちんと理解させておかないと「生徒が『去年と同じ内容か』と思うような学習になってしまう」とも指摘した。
一連のディスカッションを踏まえて、国立教育政策研究所の小林一人さんからは、福島県の放射線教育の取り組みは「日常生活に関連付ける」「探究的な学びをする」という理科の学習指導要領における大きな二つの狙いを意識して実践しているが、試行錯誤することでどんな力を子どもたちに身につけさせたいのかを意識して探究的な学習を指導することがもっとも重要だとの意見が出た。
秀明大学教授 清原洋一さん 国立教育政策研究所 小林一人さん
最後に、司会を務めた秀明大学の清原洋一教授は、いかに問題解決型・探究型の学びを展開していくかが教育的に重要ではないか、そして、教師がまず目的意識をもつことで子どもたちはより主体的・探究的に学び続けるようになるとまとめた。
【表彰式】
■放射線教材コンテストと放射線授業事例コンテストのそれぞれの受賞作品を表彰
〔2023年度放射線教材コンテスト〕
最優秀賞「見て動かしてわかる! 放射線からの身の守り方」
井上 彰之助さん(駒澤大学/写真右)
最優秀賞「多方向から骨折を診てみよう!」
岡村 美喜さん(東京都立大学/写真右)
〔2022年度 放射線授業事例コンテスト〕
最優秀賞
「中学2年生における放射線教育の事業事例」
奈良 大さん(愛知教育大学附属名古屋中学校/写真右)
〔2023年度 放射線授業事例コンテスト〕
最優秀賞「中大連携による中学2年生を対象とした放射線実験授業」
佐藤 佳子さん(和歌山信愛中学校/写真右)
最優秀賞「放射線の強度を正当に評価できる生徒を育てる
・ゆらぎのある線量率のデータを正しく評価できるように
・視覚と測定値をつなぎ、感覚的に強度を感じられるように」
大津 浩一さん(名古屋経済大学市邨高等学校中学校/写真右)
※結果は、下記の放射線教育のウェブサイト「らでぃ」で、デモ映像や抄録、教材の詳細を閲覧できる。
【放射線教材コンテスト】
https://www.radi-edu.jp/contest
【放射線授業事例コンテスト】
https://www.radi-edu.jp/case-contest
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