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放射線教育を通して教員や学生、研究者などさまざまな関係者が交流 ―日本科学技術振興財団主催 2023年度放射線教育発表会(1)

 

 2023年12月27日、放射線を学ぶ学生たちや放射線教育に取り組む教師、関係者などが東京都千代田区の科学技術館に集まり、さまざまな独自の発想で工夫がなされた開発教材や教育事例を発表するイベント「2023年度 放射線教育発表会」(主催:日本科学技術振興財団)が開催された。

 当日は、対面での「放射線教材コンテスト受賞作品発表」と「放射線授業事例コンテスト受賞作品発表」に加え、福島県の放射線教育をテーマにしたパネルディスカッションも実施された。会場は両コンテスト入選者の熱のこもった発表の姿や活気あふれる対話の声であふれ、世代や立場を越えて、放射線教育をめぐる新たな出会いや交流があちらこちらで生まれていた。

 

【2023年度放射線教材コンテスト】

■これまでの形にとらわれない学生たちの発想

「放射線教材コンテスト」は、大学や高専、専門学校などの放射線を学ぶ学生が自ら教材を作り、その完成度や独創性などを競い合う大会で、今回で6回目の開催となった。応募作品は94点。そのうち12作品が厳正な審査を経て受賞作品が選ばれた。当日は、その受賞した教材を制作した学生たちが集まり、対面形式で来場者に演示しながら熱心にその特徴をアピールしていた。

           実演風景

 

 同コンテストは、毎回、既存の教材にはあまり見られないツールや手法を取り入れた学生の新鮮なアイデアが見どころとなる。今回も、ゴーグル式のヘッドマウントディスプレーを用いた教材や、創作アニメーションで身近にある放射線を伝える教材など、学生ならではの感性が随所に現れている教材の発表会であった。

 

 

 説明を聞いていた教育関係者も興味津々の様子で、おもしろそうにヘッドマウントディスプレーをセットし何度も左右に首を振ったり天井を見上げたりしている様子も見られた。学校教育現場や家庭でコンピューターデバイスを扱うのが日常になった今の子どもたちにとって、このような道具や手法の教材はなじみやすいのかもしれない。

 

■教材に込められた学生たちの放射線エウレカ

 コンテストにおいて出品作品の評価には大きく二つのポイントがある。一つは教材がもたらす教育効果、もう一つは「放射線エウレカ」の具現化。 

 放射線エウレカとは、自分が放射線について学んでいるときに、驚きや感動とともに「わかった!」と実感した経験のこと。それを制作した教材に明確化・精緻化できているかどうかが高い評価に結び付くため、多くの学生は自分たちの「放射線エウレカ」を教材にどのように反映させたのかをしっかりと説明していた。 

 

 審査委員長の鈴木崇彦教授(帝京大学客員教授)は、作品を募集する案内の中で「みなさんが驚いたり疑問をもったことは、他の人も驚いたり疑問をもったりするのではないでしょうか? そして、それをどう理解したかを、放射線について学んだみなさん自身の表現方法で、教材にしてみませんか?」というメッセージを寄せていた。受賞作品は、どれも制作した学生たちの驚きや疑問が丹念に入れ込まれていた。

 

 放射線教材コンテストでは、駒澤大学の井上彰之助さんの作品「見て動かしてわかる!放射線からの身の守り方」と、東京都立大学の岡村美喜さんの作品「多方向から骨折を診てみよう!」の2作品が最優秀賞に選ばれた。 駒澤大学の井上さんの作品は、放射線防御の三原則「時間・遮へい・距離」を理解するための教材。パチンコ台のような板を傾けて、そこに小さなプラスチックの玉を転がす仕掛けがおもしろく、見た目や音も楽しい。子どもたちが「やってみたい」と思える魅力をもった教材に仕上がっていた。

最優秀賞、日本科学技術振興財団理事⾧賞(特別賞)

「見て動かしてわかる! 放射線からの身の守り方」井上 彰之助さん(駒澤大学)

 

 また、東京都立大学の岡村さんの作品は、偏光板を使ってレントゲンの仕組みを直感的に理解できるようにした教材。本物のように作り上げた紙粘土の腕の骨を偏光板で囲んで見えないようにし、さらに偏光板をカメラに取り付けたタブレット端末をかざしてそれを見ると、見えなかった内部の骨を画面上で見ることができる。また、紙粘土の骨は回転台の上に載せられていて、回転させることで腕の骨が2本になっていることもわかる。シンプルなアイデアだが、見えないものでも工夫をすると見えるようになるということが子どもでも理解できる教材になっていた。

最優秀賞、公益社団法人日本理科教育振興協会特別賞

「多方向から骨折を診てみよう!」岡村 美喜さん(東京都立大学)

 

 

【2022年度放射線授業事例コンテスト・2023年度放射線授業事例コンテスト】

■放射線教育の授業にはさまざまな可能性がある 

 同時開催の「放射線授業事例コンテスト」は、放射線教育を検討している教師の参考となる授業の実践事例や企画、学習指導案、教材・教具開発などの事例を広く募集し、表彰するという大会である。全国から「こんな授業をやってみたい」「こんな授業をやってみた」「こんな工夫が授業に役立った」「高価な実験道具を使用せずに授業を実践してみた」という事例が集まった。当日は、受賞者による対面形式でのプレゼンテーションが行われた。

 

 2022年度放射線授業事例コンテストでは、愛知教育大学附属名古屋中学校の奈良大さんの作品「中学2年生における放射線教育の授業事例」が最優秀賞に選ばれた。

 

 奈良さんは、中学校2年生を対象に、観察・実験を通して放射線の主な性質を理解するとともに、それらの性質がどのように利用されているのか具体的に説明することができるようになる授業に取り組んだ。

最優秀賞「中学2年生における放射線教育の授業事例」

奈良 大さん(愛知教育大学附属名古屋中学校)

 

 2023年度放射線授業事例コンテストでは、和歌山信愛中学校の佐藤 佳子さんの作品「中大連携による中学2年生を対象とした放射線実験授業」と、名古屋経済大学市邨高等学校中学校の大津 浩一さんの作品「放射線の強度を正当に評価できる生徒を育てる・ゆらぎのある線量率のデータを正しく評価できるように・視覚と測定値をつなぎ、感覚的に強度を感じられるように」の2作品が最優秀賞に選ばれた。

 

 佐藤さんは、中学校の理科教員と放射線を専門とする大学教員および学生が連携し、放射線計測の実験授業を実施することに取り組んだ。対象は中学2年生。

最優秀賞「中大連携による中学2年生を対象とした放射線実験授業」

佐藤 佳子さん(和歌山信愛中学校)

 

 また、大津さんは、高校3 年生を対象に、ふたつの観点から放射線の強度を正当に評価できるようになる授業を実践した。一つは放射線の強さが違う2 地点を検出するという課題から仮説を立て、ゆらぎのある測定データを評価・判断をする力を涵養すること。もう一つは、クルックス管からのエックス線の強度が距離で減じることを、数値測定と霧箱観察をリンクさせることで感覚的に認識できるようにすることにある。

最優秀賞 「放射線の強度を正当に評価できる生徒を育てる

・ゆらぎのある線量率のデータを正しく評価できるように

・視覚と測定値をつなぎ、感覚的に強度を感じられるように」

大津 浩一さん(名古屋経済大学市邨高等学校中学校)

 

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