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トリチウムによる被ばくの人体影響

2011年3月11日に三陸沖の太平洋を震源とした東北地方太平洋沖地震が発生し、同地震に伴う津波によって、福島第一原子力発電所で原子力事故が起こりました。現在、同原子力発電所では廃炉作業が進められており、放射性物質を含んだ水(「汚染水」)から放射性物質のほとんどを取り除いた「ALPS(アルプス)処理水)」の取り扱いが廃炉作業を進める上で課題となっています。その水の処理と関連して、「トリチウム」という言葉に触れる機会が増えました。この「トリチウム」というものがどのようなものなのか、科学的に理解するためにポイントをまとめました。

1.壊変
放射性同位体は、「トリチウムってなんだろう?」でも触れた通り、原子番号の数(元素の種類)、つまり陽子の数は同じでありながら、中性子の数が異なる同位体のうち放射線を出すものです。 放射性同位体は、多くの安定した原子と比べて中性子が多く、不安定な状態であるため、安定した状態に変化するときに、放射線を出します。この変化を「壊変(崩壊)」と呼びます。
2.トリチウムの壊変とベータ線ベータ壊変
水素の放射性同位体であるトリチウム(三重水素)は、不安定な状態から安定した状態に変化するときに、中性子の1つが電子を1つ放出して陽子に変わり、元素としては水素ではなく原子核が陽子2つと中性子1つで構成される「ヘリウム-3」となります。 中性子が陽子に変わるときに放出される電子は、「ベータ線」という放射線の一種です。
3.外部被ばくと内部被ばく
放射線に身体がさらされることを「放射線被ばく」といいます。放射線被ばくには「外部被ばく」と「内部被ばく」の2種類があります。外部被ばくと内部被ばくの違いは、放射線を発するものが体外にあるか、体内にあるかの違いであり、体が放射線を受けるという点では同じです。
4.トリチウムによる被ばく
外部被ばくで問題になるのは、体の内部まで届くような、エネルギーが強い放射線を出す放射性物質です。一方で、内部被ばくについては、体の中で放射線が出るため、どんな放射性物質であっても問題となります。 トリチウムからのベータ線は、空気中では最大5mm、水中では最大0.006mmしか進みません。たとえ体の外にあるトリチウムからβ線を受けたとしても、皮膚の表面で止まってしまうため、外部被ばくはほとんど影響がありません。したがって、トリチウムについては、外部被ばくではなく、内部被ばくを考慮する必要があります。
5.物理学的半減期
放射線を出すことでエネルギー的に安定な状態となった物質は放射線を出しません。時間がたてば放射性物質の量が減り、放射線の量は少なくなります。こうして放射性物質の量が、半分にまで減少する時間を「物理学的半減期」と呼びます。 半減期は、放射性物質の種類によって異なり、トリチウムの物理学的半減期は約12.3年です。
6.生物学的半減期
身体の中に入った放射性物質は、物理学的半減期によって、時間と共に少なくなっていくのに加えて、排泄などの生物学的過程によっても、減少していきます。汗や尿・便などの排泄により、放射性物質が身体の外に出て行くことで、体内にある放射性物質の量が半分になる時間のことを「生物学的半減期」といいます。
7.トリチウムの生物学的半減期
トリチウムは、どのような分子として体内に取り込まれるかによって、身体から排出されるまでの時間が異なることが知られています。体内に摂取されたトリチウム水(HTO)は、大部分(90%以上)が水分子の形のまま体外に排泄され、その量は10日程度で半分に減少します。つまり、トリチウム水の生物学的半減期は10日程度ということになります。 一方で、トリチウム水の一部は、体内の代謝によって有機物の一部である「有機結合型トリチウム(OBT)」に変換されて、身体にとどまるため、トリチウム水に比べ排泄が遅くなりますが、最終的には水などに分解されて排泄されます。OBTには、生物学的半減期が40日程度のものと1年程度のものがあるとされ、2つを合わせたその量は、摂取したトリチウム水の5~6%とされています。
8.国際的な飲料水のトリチウム濃度の基準
飲料水等でトリチウムを口から摂取した場合の、放射線による人体への影響の度合いは成人で、1ベクレルあたり0.000000018ミリシーベルト(1.8×10-8mSv/Bq)とされています。これをもとに世界保健機関(WHO)では、1年間の摂取による被ばく計算値の合計が0.1ミリシーベルトとなる場合を想定して、水1リットルあたりのトリチウム濃度の基準値を設定しています。そこでは、個人が基準値上限の濃度のトリチウムを含む水を毎日2リットル、つまり年間で730リットル(2L×365日)を摂取し続ける場合を条件としています。図の計算式に示すように、まず0.1ミリシーベルトを0.000000018ミリシーベルトで割り、さらに年間水摂取量の730リットルで割った結果として得られた値をもとに、WHOの飲料水水質ガイドラインでは、1リットルあたり10000ベクレルを、トリチウム濃度の基準値としています。

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