NPO法人放射線教育フォーラムの令和5年度第1回勉強会が、2023年6月11日に4年ぶりに対面形式で開催された。東京慈恵会医科大学の高木2号館の南講堂(東京都港区)を会場として、「放射線の理解を深めるための授業について考える」をテーマに、高レベル放射性廃棄物の地層処分にかかわる研究や一般に市販されている身近な放射線加工製品の紹介、東日本大地震の発生後に放射線教育に取り組んできた福島県の高校教員からの授業実践の講演があり、その後の質疑応答を通してさまざまな角度から話題が提供された。
これらの講演のうち、直接教育活動にかかわる内容の放射線加工製品の紹介と福島の授業実践についてここに報告をする。
■身近な放射線加工製品
演題:「放射線加工プロセスと品質管理」
ビームオペレーション株式会社 代表取締役 小嶋 拓治 氏
身の回りには放射線で加工された製品が多くある。
小嶋氏からは、例えば、健康診断の血液検査などで用いられる使い捨ての「ディスポーザル 注射器」は放射線の一種である電子線で滅菌されており、インターネットで検索すると、市販されているその箱には「電子線滅菌済」 の表示がされていること、また、ヘルスケア用品をはじめ食品の容器や包装材などでも、コバ ルト 60 ガンマ線や加速器で発生させた電子線の照射で滅菌されているものが多々あることなどの説明があった。加えて、プラスチックや繊維などの汎用材料に対しても耐熱性や発泡性、吸着・捕集・選択透過性など新たな機能を付加することができ、例えば、耐熱性電線、自動車の内装やタイヤ、消臭材、電池隔膜、内装用化粧板などなど、私たちのごく身近で広く使われているとの説明もあった。
講演の中では、このような製品が製造工場の中でどのように放射線を照射され加工されていくかも動画で紹介され、滅菌さや機能性付加の完遂の品質保証には、規格及び標準に基づく放射線の線量測定の技術が用いられるとの説明もあった。
この内容は、中学校の理科の授業などで、放射線加工が日常生活の中で簡単に見つかる普通の技術であることに気づかせる好事例と言える。
ビームオペレーション株式会社 小嶋拓治さん
■福島県の高校教員からの授業実践
演題:福島の高校での放射線の授業
福島県立安積高等学校 理科教諭 原 尚志 氏
高等学校の理科教師である原氏は、東日本大震災と原発事故が発生したことをきっかけに、理科の授業の中で「福島での放射線教育」に取り組んできた。
原氏は、授業においては放射線だけでなく風評や福島の復興などについても広く正しく学ばせるように力を入れていること、進め方においては学習者主体の学びを大切にして教師は学びの補助に徹することを基本姿勢として授業を展開している。
具体的には、1年生に対して「放射線や震災後の福島について自分が関心を持つことを調べ、友人・家族などに伝えたい事柄をまとめる」という課題を提示し、年度末に50分授業を5回実施して最後の2回はグループ発表にあてる授業展開を継続して行っている。
昨年度の授業では、「帰還や復興の進捗」については5グループが、「農水産物への風評」については4グループが、「原発再稼働」については3グループが、「放射線と健康」については2グループが 、「他県民の福島への意識」と「原発事故」については1グループがそれぞれ学習課題として設定し学習を行っていた。
この実践を通して、原氏は、「以前に比べて、放射線の健康影響に対する不安が減った」との指摘があり、また、最後の授業で実施したアンケートの結果と生徒が作成した資料を見ると、そこには生徒が放射線の科学的な知識を正しく身に付けた上で社会課題について考察している姿がうかがえたという。
この講演から、放射線に対する福島の高校生の受け止め方の変化を踏まえ、生徒の実態に合わせた授業展開の在り方の大切さを改めて認識することができた。
福島県立安積高等学校 理科教諭 原 尚志さん
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