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多彩な教材アイデアの優秀作品 ―2020年度 放射線教材コンテスト(2)―

 

 今回で3回目の開催となった「2020年度 放射線教材コンテスト」。101もの作品が集まった今回、これまでになかったアイデアが多く見られた。以下、優秀作品の9作品について紹介する。

 

■放射線を学ぶことで情報リテラシーにつながる

 帝京大学の藤野大樹さんらは、中学生向けに放射線の性質などを直感的に理解できる動画6種類とワークシート、教員向け資料をセットにした教材「X線について動画で学ぼう!」を作成した。作成した動画はエックス線の理解を目的とした。1本目は光の性質の解説。そこから6作品を通して、少しずつ放射線(エックス線)について理解できる構成となっている。

 「なるべく専門的な用語や難しい言葉を使わないようにして、エックス線のことをまったく知らない人が見てもわかるものを目指しました。放射線について正しく理解し、正しく恐れてほしい」と藤野さん。放射線をどのように伝え、学んでいけばよいのかを考える過程が情報リテラシーにつながるはずだと指摘した。

 

      ワークシートをみながら動画を見る

 

■放射線の基礎をボードゲームで学ぶ

 東海学園大学の瀬角唯斗さんらは、小学生向けのボードゲーム「外部被ばく低減ゲーム『距離、遮へい、時間』」を開発した。紙や鉛などの遮蔽(しゃへい)物が描かれたカードを入手すると被ばく線量を低減できたり、自分のコマを進めるほど放射性物質から離れることができたりなど、プレーヤーを飽きさせない工夫がたくさん盛り込まれていた。「日常生活の中で受ける放射線の量や、放射線を利用することで役立つ面もあることを学べるようにしました」と話していた。

 

      外部被ばく低減ゲーム「距離、遮へい、時間」

 

■被ばく線量を比較することで放射線を学ぶ

 純真学園大学の眞島杏佳さんらは、診療放射線技師になるために実習をしていた病院での経験をきっかけに、小学生向けの教材「Comparison Game」を製作した。眞島さんの話によれば、病院でレントゲン撮影をしようとすると、嫌がったり、泣いてしまったりする子ども多いという。「おそらくその子たちは自分に何をされるかが理解できないから怖いのだと思います。放射線について知る機会が増えれば、そんな怖い思いをする子が減るのではないかと思い、子どもでもプレイがしやすいシンプルなゲームの教材を考案しました」と眞島さん。「Comparison Game」つまり「比較するゲーム」という教材名の通り、カードゲームのルールは簡単で、食べ物、CT、胸部撮影などが描かれたカードを比べて、プレーヤーがその被ばく線量の大小を当てるルールとなっている。「このゲーム教材を通して、食べ物など身の回りのものからも被ばくすることを理解してもらい、放射線が意外と身近なものであるということを子どもたちに知ってもらいたい」と語っていた。

 

      遊びながら学ぶ「Comparison Game」

 

■目に見えない放射線を音に例える

 帝京大学の松林穂乃佳さんらは、スピーカーを放射線源、そこから出る音を放射線と仮定した「放射線サウンドボックス」を制作。学習者がボックスから離れたり、自分との間に遮蔽(しゃへい)物を置いたりすると、放射線に見立てた音が弱まることを体験できるようにした。「こういった教材だったら、小学生でも放射線の性質を理解できると思いました」と松林さん。音の性質と間違われないように教え方にも工夫を凝らしたとのこと。「正しい知識を持っていれば、『放射線は人から人にうつる』などの間違った考えから生まれる誹謗や中傷も起きないと思います」とも語っていた。

 

          放射線を音に例える

 

■地下水を使って、高校生自身が実験できる教育プログラムを

 東京学芸大学の石井颯太さんらは、高校生向けの教育プログラムとして、安全性の高い試薬(ゼオライトなど)を使って地下水から効率よく簡単に放射性核種(ラドン)を集めて半減期を測定する方法を開発した。「実験を簡易化できたことで、高校生が自分たちで実験を行うことができるようにもなりました。実際に実験すれば、より放射線への興味や関心が高まるのではないかと考えています。この教材を通して高校生たちの関心を福島復興に向けることもできるはず」と教育的効果の広さを伝えていた。

 

      半減期を測定するために必要な実験道具など

 

■誰でもできるわかりやすい教材を

 愛媛大学大学院の石丸遥香さんらは、中学生が実験をしながら身近な放射線利用を学べるようにと、エックス線検査のモデル教材を開発した。ペットボトルを胃、色水を造影剤の硫酸バリウム、懐中電灯からの光をエックス線に見立て、色水を入れたペットボトルに光を当てると形がよく見えるようになることを知ることで、そこからエックス線検査の原理を理解していく。石丸さんらが大事にしたことは「誰でも作ることができて、誰でも使うことができ、さらにわかりやすい教材にする」ということだったと説明。「私が今まで受けてきた放射線教育では知識を覚えるだけの内容が多く、もっと実験や活動を通して生徒自身で考える機会を多くする必要があると思いました」と、この教材を作った意図を説明していた。

 

       色水の入ったペットボトルの影を確認

 

■いじめや差別がなくなってほしい

 帝京大学の熊野亜海さんらは、蓄光剤と身近な道具を用いて、放射線が人に感染しないことを小学生に伝える教材を作成した。人に見立てた蓄光材入りの粘土を2つ用意し、1つだけ箱に入れて遮蔽(しゃへい)して、放射線と仮定した蛍光灯や太陽の光を照射。そして、2つの粘土を暗所で密着させても、遮蔽(しゃへい)された粘土が発光しなかったり、うっすら光っていても増強されたりしないことを確認し、放射線がうつらないことを視覚的に理解していく。「小学生が取り組みやすい教材にすることで、興味を持ちやすく記憶に残りやすいものを目指しました。放射線に対する誤解を解くことで理不尽ないじめや差別がなくなってほしいという願いを込めました」と熊野さんは力強く語った。

 

     蓄光粘土を使って「放射線はうつらない」を表現

 

■「難しい」と思わせない工夫

 東海学園大学の鈴木望友さんらは、子どもたちの間で人気のカードゲームにヒントを得て、小学生向けに12種類のキャラクターに名前を付けて集めるというゲーム型教材「放射線教材用カードゲーム『この子だぁれ?』」を開発した。

オリジナルキャラクターは、レントゲン写真や非破壊検査、食品保存、スポーツ用品の品質強化など、放射線利用の中でイメージしやすいものを選択。プレーヤーたちは、そのキャラクターに自ら名前を付けて遊んでいく。名前は反復して出てくることから、お題となった放射線利用例について自然と覚えることができる。「キャラクターを考えるのは大変でしたが、放射線が私たちの身近な場所でどのように使われているのか、こういったカードゲームから学んでもらえたら」と、鈴木さんは遊べる教材の重要性を強調した。

 

    放射線教材用カードゲーム「この子だぁれ?」

 

■小学生自らが物語を完成させて進む紙芝居

 帝京大学の髙橋あきほさんらは、小学生を対象に放射線の種類を魔物のキャラクターにした紙芝居を創作した。主人公の男の子が、おばあさんのために魔物がいる山へ果物を取りに行くという内容だった。襲ってくるそれぞれ特徴のある魔物に対して、どの遮蔽(しゃへい)物なら防護できるかを考え、正解と思われる遮蔽物のイラストを自分で紙芝居に貼りつけるなど、小学生自らが物語に参加できるのが大きな特徴となっている。

「この教材を通じて、子どもたちが家族などと話す機会が増え、さらにより多くの人に放射線について知ってほしい」と、髙橋さんは教材に込めた思いを語った。

 

       紙芝居「たろうくんの大冒険」

 

※下記サイトでは、受賞した各教材の説明動画を見ることができる。

https://www.radi-edu.jp/contest/list-of-award

 

 

学生の熱い思いが生み出す多彩な教材アイデア ―2020年度 放射線教材コンテスト(1)―

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