地域の違い、学びの多様さを伝え合う
=福島県内7小中校の子どもたち=
放射線教育とつながりのある防災教育の成果も発表し子どもたちが互いに学ぶ。そんな新たな試みが、2017年11月15日に福島県内で開かれた。県教育委員会が主催した「放射線・防災教育フォーラム」で、平成29年度の7つの実践協力校から児童と生徒約300人が参加。会場となった福島県環境創造センター(コミュタン福島)の大きなホールでは、引率の先生、教育関係者も見守るなか、子どもたちの活発な発言に関心が寄せられた。
登壇した7校代表の子どもたち
■「学びの共有」を呼び掛け
司会を務めたのは、福島県教育庁の阿部洋己先生(高校教育課 県立高校改革室)と青森テレビアナウンサーで福島県出身の池田麻美さん。阿部先生は冒頭、会場の子どもたちに「他の学校の友だちが、どんなことをやって、何を学んで、何を感じているのかを、みんなで共有しながら、今まで考えていなかったことに気づいて、それを考えたり学んでみたいと思ってくれたら、うれしいです」と語りかけた。
壇上に並んだ子どもたち7人。防災教育の実践協力校の3校<佐倉小学校(福島市)、明和小学校(只見町)、江名中学校(いわき市)>と、放射線教育の実践協力校の4校<行仁小学校(会津若松市)、三春中学校(三春町)、西郷第一中学校(西郷村)、富岡第一・二中学校三春校(三春町)>の代表だ。自校の取り組みについて1人3分で概要説明。その学びを通して印象に残ったことや特別に感じたことを伝えた。
国内では北海道、岩手県に続き3番目に広い面積を持つ福島県であり、地形や気象風土の違いから、海岸に近い「浜通り」、山間地の「会津」、そして両地域の間の「中通り」と、大きく3地域に分かれる。東日本大震災とその後の福島第一原子力発電所の事故による放射線影響も異なる7つの学校はどう違うのだろうかが注目された。
■地域で異なる自然と災害
佐倉小学校がつくったハザードマップと白山七海さん
最初は防災教育の3校の発表。佐倉小学校(福島市)は、吾妻山の噴火など自然災害を想定して防災訓練を実施している。
6年生の白山七海さんは、児童たちが「佐倉防災隊」として取り組んだ探究活動や避難所体験の話を紹介。児童だけで災害時の備えを考えて準備し、市からテントも借りて実践したものの、「自分たちの備えだけでは足りない」という状況になってしまったという。「想定外のことが起こることや、その環境や状況に応じて問題を解決することの大切さを実感しました」と報告した。
菊地結雅さん
続く只見町の明和小学校。冬は豪雪地帯だが、夏にも大雨被害(平成23年7月)があった。6年生の菊地結雅さんは、専門家から話を聞く授業で「減災という考え方があることを初めて知った」。学習したことを周囲に伝えるために防災マップを作り、保護者や地域の人に発表したという。
佐河桃佳さん
3番目のいわき市の江名中学校。海岸近くに立地し、東日本大震災のときは津波で被災した人が体育館に避難してきた。生徒たちは津波防災と原子力防災を深く学んでいる。3年生の佐河桃佳さんは、「災害時は、自分の意思を伝え、他者の考えに耳を傾けるコミュニケーションが大切であることをワークショップから感じました。正しい知識を持つことが、自分を守り、他人の命も助けることになることもわかりました」と話した。
■学びにさまざまなアプローチ
平山達也さん
続いて放射線教育の4校。まず行仁小学校(会津若松市)の4年生の平山達也さんは、道徳の授業を通して学んだ風評被害について発表した。福島第一原子力発電所の事故の被災地から避難してきた児童が、友人たちの何気ない言葉で深く傷ついてしまったというエピソードを学び、クラスのみんなで相手の気持ちを思いやり、進んで親切にすることの大切さを伝えた。
渡邉百香さん
三春中学校(三春町)1年生の渡邉百香さんは、放射線について三つのステップで学習していると発表。最初のステップでは、理科の授業で放射線に関する基礎知識を学習。次は保健体育で放射線が人体に与える影響を学び、三つ目のステップの社会科で除染の実際や風評被害に対する農家の取り組みなどを学習したという。そのうえで総合的な学習の時間でまとめを行い、県外避難児童生徒へのいじめ問題や県産品に対する風評被害についても学習。放射線の正しい知識や今の福島の現状を知ってもらうために、何を伝えればいいのかを一人ひとりが考えてまとめたという。
自分が学んだことをまとめた相山優香さん
西郷第一中学校(西郷村)3年生の相山優香さんは、自身の小学校から今に至るまでの学びを説明しながら、中学2年生のときに生徒会の活動で西郷村人権会議に出席し、原子力発電所事故の放射線によって県外で起きるいじめ問題について意見交換したことを報告。放射線について正しい知識をもち、その知識を相手にしっかりと話す力を持つことの大切さを学んだと伝えた。相山さんの将来の夢は看護師になることで、「これまで学んできたことを生かして、放射線で悩みを抱える人の心のケアもできるようになりたい」と決意を語った。
■双方で、違いや共通性を学ぶ
遠藤雅也さん
最後は富岡第一・二中学校三春校。現在、学校は原子力発電所事故の影響で富岡町から避難した先の三春町にあるが、3年生の遠藤雅也さんは、三春町にある福島県環境創造センター(コミュタン福島)を活用しながら学んだことを発表した。放射線量が土の遮蔽によって軽減されることや、福島県の各地で放射線量が異なることを学習したという。
自分たちの学校が元々あった富岡町ついては「放射線の線量をグラフにまとめたところ、線量が急激に下がっている部分があり、除染活動が行われていたのがわかりました」と報告。小学2年のとき以来、最近6年ぶりに一時帰宅した遠藤さんは「街の様子が変わり、人の気配のなくなり、さびしいなと思いました」と皆に伝えた。
雪の世界を伝える明和小学校のスライド
子どもたちは、これらの報告から、同じ福島県内でも地域で災害が異なることを学んだ。冬には校庭の遊具が雪で埋まる只見町の明和小学校の写真がスライドで紹介されると、会場からワーッと驚きの声が聞こえた。同じ県内でも地域の違いを知らない子も多いようだ。
このほか、想定外のことが起きる事実、マップづくりなど地域を知ること、人と人とが力を合わせることの大切さは、防災・放射線の両教育に共通している。避難所での人と人との関係、いじめや風評被害への対応などについても、子どもたちの曇りない目で見た発言が相次いだ。
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