平成29年年8月4日、福島県の相馬市教育研究実践センターで、放射線教育のレベルアップを図る研修会が開かれた。主催者は相馬市教育委員会。対象は、同市内の公立小学校教員11人と中学校教員4人の計15人。朝から夕まで丸一日の研修会だったが、実験と講義が交互に展開されるメニューで、受講している先生たちの集中力は、一度も途切れることがなかった。
■実験での「驚き」から原理学ぶ
受講者は初めて放射線教育の研修を受ける教員がほとんど。講師を務めたのは、放射線生物学が専門で、東京大学などで放射線の人体影響や細胞培養などの研究を長年してきた鈴木崇彦教授(帝京大学医療技術学部診療放射線学科)。日本科学技術振興財団が実験実施に協力した。
最初のメニューは、霧箱の自作と放射線の飛跡の観察。ただ、すぐには霧箱の作成に入らず、まず放射線の飛跡が飛行機雲のように見える霧箱の仕組みを解説。このとき、雲が出来る原理を解説するにあたって、粉々にしたドライアイスを空中に放り上げて実際に雲が生まれる瞬間を実演すると、先生たちの間から「ウォー」という歓声があがった。霧箱を用いた観察は放射線教育の定番だが、その原理が分かりにくい面がある。先生たちは、実験を加えることで少しでも体験的に説明できることを学んだようだった。
ドライアイスの粉末の飛翔跡に雲ができる実験
■「目に見える光」から知る「見えない光」
実験を終えて鈴木教授の講義が始まった。霧箱で放射線の飛跡が見えた現象を振り返りながら、放射線が出てくるメカニズムやその種類、放射線と放射能の違い、基礎的な知識を解説した。また、放射線による人体への健康影響についても説明。鈴木教授は、放射線の被ばくには、レントゲンなどで浴びる医療被ばくや、飛行機に搭乗することで浴びる宇宙からの放射線、食品から体内に入ってしまう放射性の元素などもあり、放射線を浴びる量は、人の生活習慣などでそれぞれ異なることを強調した。
鈴木崇彦講師
その後、再び実験や工作などを交えた時間。「人の目には見えない光」があることを、紫外線を例に理解し、放射線にはエックス線やガンマ線など電磁波の性質もあることを学んだ。さらにレントゲンの透過力を知る実験や、放射線の防護の基本を知る実験も行った。
波長によって違う色を知る分光カップと色紙
放射線の強さを音で聴く実験
続く討議の時間では、実際に福島第一原子力発電所の事故後に学校で生じた問題を提示されて、グループ内で自分の意見を述べ合った。「う~ん」「悩ましい」と腕組みをしながら、先生たちは一生懸命に考えて発表した。最後は、鈴木教授との質疑応答。先生たちはノートに細かくメモを取っていた。研修会を終えて参加者の一人は「実験では身近なものを取り入れていたのでわかりやすく、とても興味がわいて、講義の知識がスーッと頭に入りました」との感想を寄せた。
■子どもたちにきちんと説明できる教師に
この研修会を企画した相馬市教育研究実践センターの島義一指導主事は「震災から6年以上が経ち、放射線教育がマンネリ化することを危惧しているところ。放射線教育は一生の教育であり、子どもたちの前で放射線をきちんと説明できる教師を育てていきたい。今回、放射線の基礎知識を一方的に伝えるのではなくて、実験と講義の両方をうまく織り込んでいたのが、受講者の先生方の満足度を高めたと思います」と振り返った。
相馬市教育委員会の松本一宏学校教育課主幹兼指導主事は「放射線教育というと、霧箱と『はかるくん』などの機器を使った放射線の測定くらいしか思い浮かばない先生が多いと思います。今回の研修では、いろいろな実験や実習のやり方を教えてもらい、それも小学生も対象にした内容もたくさんありました。これを多くの先生が実践できれば、きっと子どもたちは早いうちから放射線についての理解を進められると思います。子どもの発達段階に応じて、どの学年にどのような実験と説明を入れるのかの指針を打ち出していただけるとさらに助かります」と期待した。
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