福島県の放射線教育の牽引役である2人の先生が2016年11月15日、同県伊達郡川俣町立川俣小学校で、放射線教育の留意点やこれからの放射線教育の在り方について講演した。最初の講師である富岡町立富岡第一中学校の阿部洋己校長は、東日本大震災以降、福島県教育庁指導主事として「放射線等に関する指導資料」を作成するなど放射線教育の方向付けを行った。2人目の講師は現在その放射線教育の事業を推進している県教育庁義務教育課の國井博指導主事。いずれも川端小学校での放射線教育の公開授業のあとに行ったもので、同小学校での公開授業はこのサイトの「実践紹介」の「放射線教育授業実践事例32」に掲載、そこでも2人の講演を紹介している。
■課題解決のためのいくつかの重要ポイント
富岡町立富岡第一中学校 校長
阿部洋己校長先生
福島県教育委員会がまとめた指導資料にも載っていますが、放射線教育に課せられた課題を解決するには大きな3つのカテゴリーをしっかりと抑える必要があると思います。
まずは、放射線などについての知識理解です。科学的な理解がない所で考えると、イメージでとらえてしまい、自分の勝手な想像で話を進めていくことになり、物事が先に進まないし解決できません。
二つ目は、自分が放射線などから身を守る実践力です。どうやって自分自身の身を守ったらいいのか。これは当然食品などをどう選ぶか、線量の高い場所があればそこに対して自分がどのように距離を置いていったらよいか、どうやって速やかに離れていったらよいか、その辺の感覚だと思います。
三つ目は、心の問題です。道徳とか人権教育も入ってきます。
以上のように、知識だけ教えれば良いわけでもなく、一方、知識がないのに身の守り方や道徳教育を進めても、片手落ちになる(言い換え→完全でない)と思っております。
指導資料に放射線教育をしっかり進めるうえでの留意点を以下のように挙げました。
① 放射線は自然にもあって身近なものである。
② 放射線は医療などにも利用されている。
③ 放射線は量が多いと危険である。
④ 災害時には身を守るための対処法を考える。
つまり、自然放射線が元々あることを理解していないとだめなのです。それから利活用として、日常的には医療で使われている放射線、レントゲン撮影にも使うし、治療にも用いられます。放射線を上手に使うことによって、私たちの命を延ばせるかもしれませんが、放射線を誤解してしまうことで、その可能性を生かせない人が出てしまっては不幸です。
ただ、抱き合わせで必ずやらなければいけないのが、多量に一度に浴びてしまったときには危険だということ。つまり利活用もできる、だけども危険な場合もあるってことをしっかりと踏まえることが大事だということです。
■復興や希望につなげる放射線教育
福島県教育庁義務教育課 指導主事
國井博先生
横浜市で福島から自主避難していた子供がいじめにあったというニュースがありましたが、これからの福島県の課題の一つとして、放射線教育を絡めながらの人権道徳教育はこれまで以上に重要課題になってきます。また、各専門機関で連携してくださる県外の方も、日本全体で放射線教育が必要だと指摘しています。例えば、浜通りの人も会津地方の人も、茨城県の人から見たら、同じ「福島県民」。その茨城県の人も日本全国からすれば「福島の隣の県」なのです。世界から見れば福島とか関係なく同じ「日本人」と見られるわけです。だから放射線教育は福島だけやればよいというわけではないのです。
県外や海外からの注目はこれからどんどん増えます。県教育委員会だけでなく、おそらく福島県で働く先生方にも、「福島の今はどうなんですか?」と聞かれるようになると思います。
私見ではありますが、廃炉までには50年はかかると覚悟しないといけない。そのためにもこれからの復興を担う子供たちの新たな夢や希望の実現のために放射線教育の実践の継続が必要です。放射線教育はマイナスイメージに思われがちですが、そうではなくて、子供の夢や希望を持つための放射線教育でなくてはいけない。これは人材育成にもつながっていくもので、この学習をすることによって、「じゃあ、僕は復興のために役立つ人間になりたい」という子どもが出てくる、そういった授業の展開が大事になっていくし、続けていくことが大事だと思います。
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