2016年10月14日(金)、福島県西白河郡西郷村立羽太小学校で、1,2年生には生活科の時間において、また3年生から6年生には総合的な学習の時間において、放射線教育の公開授業が行われた。
羽太(はぶと)小学校
1875年に開校。所在地の福島県西白河郡は栃木県の県境に位置し、西郷(にしごう)村は阿武隈川の上流域に当たる。JR新白河駅から車で約15分。福島第一原子力発電所からは約80km離れているが、比較的に高い放射線量だったため2015年3月まで屋外活動制限が設けられていた地域である。児童数は66人(2016年10月現在)。
■地域に学び、中学校につなげる教育を目指して
●羽太小学校 西牧泰彦 校長
羽太小学校は、「地域に学び地域に生きる子供の育成」という看板のとおり、地域密着型の子供の育成が特色です。例えば、この地域には上羽太天道念仏踊りという福島県の重要無形文化財に指定されている念仏踊りがあり、30年近く地域の方に教えていただき、学校の運動会などで発表しています。
「地域はどんな課題を抱えているか?」、「地域は以前と比べてどう変わってきたのか?」、そして「地域の良さは何か?」という点に着眼し、子供たちが地域を学習対象とすることはとても大事なことで、そこに我々が視点を補って、学習として展開することは可能です。放射線という切り口でも「地域に学ぶ」ことはできると思っております。今回3年生、4年生の授業の中で、JA夢みなみさんや放射性物質検査の技師の方に学校で話をしていただいていますが、それがまさに、自然環境だけでなく、地域の施設やそこで頑張っている方を対象とした内容です。
この先、震災を知らない、そして原発を知らない子供が入学してきます。その時は一度リセットボタンを押して、その子供たちの実態を捉え、その時の地域にある素材で、カリキュラムを地域と一緒に作っていかなければなりません。5年10年経てば、震災を知らない子だけになります。その時私達はいないかもしれませんが、継続的に教育を積み上げていくために仕組みが必要です。また大きな地震が来たり、台風の暴風や雨で放射性物質が大量に漏れたりしたとき、「このくらいなら大丈夫」「こうすれば自分の身を守れる」ということを、子供たち自身が理解してないと、また混乱のあった2011年の3月11日を繰り返してしまいます。
落ち着いて知ることも向き合うこともできるようになったこの状況は、5年経ったからこそだと思います。福島県の学校教育では、「中学3年生の段階で他者に科学的根拠を基に情報発信できる力を身につけさせる」ことを目指していますから、最低でも年間2時間を6年間積み上げて、中学校での教育に繋げ、見方・考え方を育てていければと思います。
■生活科と総合的な学習で、全学年に
公開授業は、1年生と2年生は生活科で、3年生から6年生までは総合的な学習の時間で、全学級で行われた。
〔1年生〕 じぶんを守るために、生活の中でできること
紙芝居を使って放射線の基礎を学ぶ。「じぶんをまもるためにはどんなことに気をつければ良いか」という問いに、児童は「手洗い・うがいをすることで、放射線を出すものを体にいれないようにする」などと答えていた。
〔2年生〕 放射線から身を守る方法をポスターで伝えよう
さまざまなキャッチフレーズやイラスト、写真などから、自分のイメージに合うものを選ぶ。そして「側溝には近づかない」といった身を守る術を伝えるポスターを、レイアウトを工夫しながら完成させた。
〔3年生〕 食事を通じて健康管理を考え、安心・安全でバランスのよい食生活を
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給食の献立をつくる栄養士さんの話を聞き、「健康な体をつくるには、どんな食べ物をどのように食べればいいのかな」と、食育の切り口から放射線などについて考えた。
〔4年生〕 福島の米の安全性を伝えよう
福島の米に対するお店の人の考えが分かるビデオを観た。その後、事前に学習していた「カリ肥料」や「全量全袋検査」などのキーワードを入れて、福島の米が安全であることを伝える手紙を作成した。
〔5年生〕 放射線の現状や解決策をポスターで伝えよう
福島県環境創造センターで学習した内容を基に福島の現状や解決策を伝えるためのポスターを作成した。児童は、?食べ物の検査、?体のしくみ・病気、?子供の将来、?除染―の4つのチームに別れ、それぞれに見出しや内容を考えて作った。
〔6年生〕 新聞記事から風評被害の現状を知り、正しく理解して伝えよう
今後、県外で生活するようになったとき、「福島で作った食べ物を食べて大丈夫なの?」という質問をされたらどう答えるか。学んだことや宿題で作成した新聞スクラップの情報を活用しながら考えた。
■見えないものを見る、校庭での測定演習
●演習:高橋一智氏(高エネルギー加速器研究機構放射線科学センター)
公開授業終了後、参観した他校の教師や関係者が体育館に集まり、意見交換する研究協議会が開かれた。
最初に校庭で実際に測定器を使った演習を行う。高橋氏は「測定器を使えば、どこが高いのか数値で知ることができる。放射線は見えないが、道具を使えば放射線量を見ることができる」と説明。「放射線は明確な科学的根拠によって裏付けられるもの。この先、放射線に関する偏見は必ず出てくる。放射線に対する正しい知識を身につけて、偏見に打ち勝てるようになってほしい」と話した。
■福島ならではの教育、未来につなげる
●講義:西牧泰彦(羽太小学校 校長)、関根夕子(同校 教諭)、國井博(福島県教育庁義務教育課 指導主事)、伊藤比呂美(県南教育事務所 指導主事)
羽太小学校の西牧校長と関根教諭から、同小における放射線教育の実践について報告があった。西牧校長は「福島ならではの教育、その小学校ならではの教育が重要で、福島の未来を考えるカリキュラムデザインやカリキュラムマネジメントが必要。まもなく大震災と原発事故を知らない子が入学してきて、学校で原発事故などを教えなければならなくなる。学校でしかできない教育に取り組み、小学校6年間だけで育てられない部分は、中学校へと繋げたい。
最近は保護者の方、地域の方が放射線について学ぶ機会もなくなっているので、子供たちの教育とともに保護者や地域の方々への教育も学校が担っている事のひとつ。
風評・風化の問題をなくすため、長い期間をかけて子供たちを育てていかなければいけない」と語った。
続いて福島県教育庁の國井氏が、「正しい知識を身につけて、自ら考え、判断し、行動できる人間になってほしいという願いを込め、この放射線教育に取り組んでいる。放射線教育と言っても丸々1時間でやる必要はない。環境教育や安全教育、食育、健康教育や人権教育など、いろいろな教育と関連させながら実践することが大切」と指摘。「人材育成にも繋げられる。復興を担う子供たちが夢や希望を持てるよう育てていきたい」と話した。
最後に、県南教育事務所の伊藤氏が「放射線教育の課題を解決するためのはじめの一歩は何か?」と問いかけ、各学校の先生方は自校の課題と方策について発表した。そして「子供たちの将来も見据え、子供たちが強く生きていけるような教育活動に取り組まなければならない」と締めくくった。
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