2015年9月18日(金)、東京大学工学部11号館講堂において「放射線教育と人材育成に関する総合講演会」(電気学会 原子力・放射線の知識と防護技術の普及とその手法の開発に関する技術調査委員会 主催)が開催されました。同委員会は原子力・放射線の知識や技術の普及、共有を目的に、2014年から活動を開始しています。2部構成で行われた今回のプログラムの中から、第1部の「小中高における学校教育」の概要をご紹介します。
講演(1)
「福島教育委員会の活動」
● 鳴川哲也氏(福島県教育庁義務教育課指導主事)
冒頭、夏休み前にある県の男性から「福島から子どもたちが遊びに来るのはいいが、靴には放射性物質がついている。きれいな靴を履いてくるように指導してほしい」という電話があったというエピソードを紹介。そんな中で福島では独自の放射線教育推進事業を行っているとし、2011年度から作成している放射線等に関する指導資料についての説明があった。毎年改訂を行うごとに内容は充実させており、2014年度には現場の声に応えて学習教材DVDも作成したと報告。本年度も「指導資料や実験器具などを活用した協力小中学校による授業公開」を引き続き行うとともに、「指導者研修会の開催」、「各地区で研究協議会」を柱に、こうした活動を通して「学校全体で組織的、計画的に取り組むこと」、「中学校卒業時点で、他者に科学的な根拠をもとに情報発信できる力をつけさせること」が重要だと語った。さらに、放射線教育の基礎知識とともに、たとえば道徳の時間での心の教育なども必要だとし、さまざまな側面から放射線教育を実践し、福島から全国、全世界に発信していきたいと結んだ。
講演(2)
「日本原子力産業協会の教員支援活動」
● 木藤啓子氏(一般社団法人 日本原子力産業協会 人材育成部)
まず当協会が1956年から原子力・放射線利用の推進を目的に「人材育成」、「地域連携」、「国際協力」の3事業を柱に活動していることを紹介。中でも産官学連携の原子力人材育成ネットワークについて言及した。2010年に他の団体とともに立ち上げたこのネットワークは、原子力の安全確保の土台である人材育成などを目的にしたもので、大学や研究機関、企業、国など71機関で構成され、国内、海外で活動を展開。小中高校において放射線・原子力の基礎をわかりやすく正確に伝える活動を支援することを目的とした初等中等教育支援分科会においては、3.11以降、新たに教育支援活動に関する情報の収集・発信活動を開始したと述べた。知識も経験も少なく、戸惑う教育現場が多い中、理科教員の支援、放射線教育についての支援などを、現場の声を汲み上げながら行っていることを報告。活動イメージとしては、教育現場や大学や企業、国などを結ぶ「放射線教育支援地域コーディネーター」だとし、今後もさまざまな交流を行いながら、知見を積み重ね活動を広げていきたいと語った。
講演(3)
「日本原子力学会の教育支援活動〜初等中等教育の教科書におけるエネルギー・原子力・放射線関連記述の調査と提言〜」
● 工藤和彦氏(九州大学 名誉教授)
続いて、日本原子力学会で初等・中等教育小委員会委員長を務める工藤氏が登壇し、教育支援活動の一環である「教科書調査活動」について語った。当初は大学の原子力教育の検討を目的としていたが、チェルノブイリの事故を受けて、初等中等教育段階における原子力教育の調査も開始。当時の高校の教科書には誤解や科学的根拠のない記述などが見受けられ、改善を求めたとした。以降も調査を継続、報告書を作成し、文科省や教科書協会、メディアなどに提出してきたが、こうした活動が実を結び始めた中、3.11以降にはまた誤った記述などが多く見られるようになったと報告。「原子力発電所は、日本では法律などによって臨海部の人口の少ないところに建設することになっている」、「急性障害が生じない量の放射線でも、がんや遺伝的障害が発生する可能性がある」などの記述を紹介しながら、これらを「非難するのではなく、より良い教科書にするための参考にしてほしいと願い活動をしている」と述べ、「声高に主張するのではなく、理解し納得していただくために根気よくやっていきたい」と結んだ。
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