放射線教育授業実践事例19:福島県西郷村立西郷第二中学校
2014年12月18日、西郷村立西郷第二中学校では、1年生から3年生の8クラスにおいて、放射線教育の公開授業を実施した。その中から、1年2組(26名、渡邊祐介教諭)が学級活動として2時限に渡って公開した「放射線量と健康の関係」(50分)「放射線から身を守る」(50分)を紹介する。
[1限目]
3.11福島第一原子力発電所事故で変わったこと
2011年3月の福島第一原子力発電所事故のとき小学3年生だった生徒たちに、事故を契機に生活で何が変わったかを問うことから始まった。生徒たちからは、「節電するようになった」「除染するようになった」「甲状腺検査をするようになった」「ガラスバッチを持つようになった」などの意見が出て、授業はこれを契機に展開させた。
WEBサイト上の記事を題材に
ここで、今日の授業の課題「放射線から身を守るためには、どのような方法があるのだろうか」を提示。まず、ネット上の質問サイトに出ていた福島県出身で北関東で就職している女性の「福島のものには放射能が含まれているという会話を社内で聞いたため、福島県のお土産を会社に持っていくことを躊躇するようになったが、どうしたらよいか」を題材に、福島県のものを他県の人にあげた時の受け取る人の気持ちを考えさせることをグループ討議をさせて、発表させた。
次に、「事故時、都内で暮らして被ばくもしていない女性が、福島県出身であることだけで放射能のせいで元気な子供が生まれないからという男性側の母親の偏見で結婚が破談になった」というブログを題材に「結婚の招待状を県外の人に送った時の受け取った人の気持ち」をグループ討議させ発表させた。
生徒たちは、いずれの題材に対しても、「本心はお土産を喜ばない」「福島県には行きたくないので理由をつけて断る」などとし、否定的な意見が多数を占めることになった。
県外の人の気持ちをどう変えていくか
次に、「県外の人たちが知りたいことは」「福島県の人が県外の人に伝えたいことは」についてグループ討議させ発表させると、県外の人は放射線の人体への影響や福島県内の食材の安全性などについて知りだがっており、福島県の農産物は検査もしているので害はないといったことを伝えたい、という生徒たちの思いを知らしめることになった。
そして、1限目の最後に、除染やモニタリングなど事故に関する様々なシーンをスライド写真で見せながら、それぞれが何であったかメモさせ、2限目に入ることにした。
[2限目]
キーワードから放射線・放射能の解説に
2限目は、1限目の最後に見せた様々なシーンをグループ分けさせることから始めた。その結果、除染、健康、放射線測定などに分かれることになった。そして、放射能に関して「知りたいこと」「気になること」「変だなと思うこと」などについて、グループごとに3つぐらいずつ出し合うようにさせた。すると、「福島県産のものは食べても大丈夫なのか」「放射線はどのくらい浴びても大丈夫なのか」などについての疑問が出された。
それを受け、スライドを見せながら、放射線とは何か、放射線の利用、甲状腺検査やセシウムなどの説明に引き続き、なぜ原子力発電を使うのか、外部被ばくと内部被ばくの違い、モニタリング結果はすべて公表されていることなど、疑問に答える内容を含めて解説した。
西郷第二中学校の放射線量から考える
続いて、西郷第二中学校の敷地内にあるモニタリングポストの結果から分かっている放射線量0.1マイクロシーベルト/時をもとに、年間の放射線量を計算して見せた。その結果、0.876ミリシーベルト/年となり、国の基準1ミリシーベルトより下であることを示すとともに、しかも外にずっといるわけではないので、実際の被ばくはもっと小さいことを解説。さらに、ガラスバッチの数値もあり、各個人の被ばく量は確実に把握できていて問題ないことが明確なので、そうした実態を堂々と語って良いと諭した。
最後に、放射能から体を守るためにできることをグループ討議させ、日常生活で実践できる方法を考えさせた。そして、放射線・放射能についての資料・情報を普段から集めて、自分で考えられるようになってほしいとまとめ、授業を締めくくった。
事後研究会
授業終了後開かれた研究会には、西郷第二中学校の全教員のほか、指導助言者としてNPO法人市民科学研究室代表・上田昌文氏、福島県教育庁から2名、そして見学に参加した他校の教諭が参加した。
教員からは「放射線のことばかりに目が行きがちだが、原子力発電を含めた原子力の全体に対する情報不足、知識不足がありながら進めることが気がかり。全体を理解してから授業に臨みたい」などの心情が明かされた。
そして、最後に指導助言者の参観してのスピーチを経て終了した。
Copyright © 2013 公益財団法人日本科学技術振興財団