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北から南から 福島を踏まえた放射線教育の全国展開Ⅱ(公益社団法人日本アイソトープ協会主催)

 

第51回アイソトープ・放射線研究発表会 パネル討論会(平成26年7月9日)

 

放射線副読本の改訂について

文部科学省初等中等教育局 主任視学官 清原洋一氏

 

 文部科学省初等中等教育局が平成23年に作成し、24年3月に全国に配布した『放射線副読本』(小学生、中学生、高校生用)は、放射線についての理解を深めるために作成されましたが、福島第一原子力発電所事故についての記述がほとんどないことが指摘されたため、初等中等教育局が改訂して1200万部作成、今年の2月に希望した全国の小・中・高等学校などに配布されました。改訂版の特色は、福島第一原子力発電所事故について1章を設けて、詳しく説明したことだと言えます。このほか、義務教育では30年ぶりに指導要領に導入された「放射線教育」について説明がありました。

 

 

やってみよう 放射線教育

奈良市立興東中学校 西田敬子氏

 

 興東中学校では、平成24年度からの新学習指導要領実施から放射線教育を導入し、放射線副読本を活用するとともに、近畿大学の原子炉での実験に参加するなどしてきたとのことです。また、「まず、やってみよう」ということで、「放射線とは何か」「放射線が体に与える影響」「放射線の測定」(2時間)「まとめ」の5時間をあて、”ガンマくん”や”ベータちゃん”などを使って様々な所で放射線を測定し、結果を発表し合ったりすることなどを取り入れたと説明されました。さらに、放射線の内容によるオリジナルのカルタを生徒たちが作成し、楽しみながら放射線に関する知識を定着することに大変役立っているとの発表に多くの来場者が関心を示していました。

 

 

名古屋市の中学校における放射線教育

愛知県名古屋市立上社中学校 佐野嘉昭氏

 

 上社中学校では、福島第一原子力発電所事故に関する新聞記事を教材として用い、まず記事の要約から始め、次に旧副読本を使って放射線の基礎知識を習得させました。そして霧箱を使用しての実験で放射線を実感させ、次に校内の放射線の測定を行なうなどの活動の後に、再度始めに読んだ新聞記事を要約させ、自分の意見を取りまとめ発表させたとのことです。そうしたところ、科学的知識を身につけたことから新聞の見出しにある「放射能」の使い方がおかしい、ここはベクレルよりシーベルトで表現すべきだ、などと新聞記事の読み方なども変わり、自分でいろいろ判断できるようになったことが示されました。この学習の効果に、会場から称賛の声が上がりました。

 

 

東海村における放射線・原子力に関する学習について

茨城県東海村立照沼小学校 鈴木克己氏

 

 茨城県東海村は、1999年のJCO臨界事故を受けて原子力災害に備えた体制を整え、「自分の健康や命を守るために、多くの情報もとに正しく考え判断し行動する」を村立小・中学校での基本的取り組みとしてきているとのことです。小学校では、茨城県独自の原子力副読本を用いて、1、2年生では正しい避難の仕方、3年生では放射線について、4年生では身体への影響、5年生では放射線とエネルギーの現状、6年生では身体への影響、福島の原子力事故と被害、といった流れで学習しているほか、照沼小学校では全校生徒による屋内退避訓練を実施しているそうです。また、地元の原子力機構から講師を招き、簡易測定器を用いた放射線測定などの放射線教育を行なっていることも紹介されました。

 

 

飯館村における放射線授業の実践

福島県相馬郡飯館村立飯館中学校 吉田良平、荒木郁未氏

 福島第一原子力発電所の事故を受けて、飯館村では放射線教育推進委員会を立ち上げ、教育委員会とともに「放射線教育指導計画」を作成し、まずは教師の指導力の育成に努めているそうです。中学校では、理科(3年のみ)を3時間、保健体育(1〜3年生)を各1時間、学級活動(1〜3年生)を各2時間実施し、授業ではクイズ形式を導入することで興味や関心をひくことができたとのことです。また、食品に含まれる放射能検査なども行なったことが食品への安心につながったようです。荒木さんは給食の栄養士として、「食の安全」の視点から学校給食センターでの食品の放射能検査を毎日行なっており、生徒たちに測定結果を学校のHPで公表していることなどを紹介していたそうです。ただ、情報の氾濫により、どの情報が本当なのかわからないなどの課題も残っているとのことでした。

 

パネル討論    

コーディネーター/高畠勇二氏 (エネルギー・環境理科教育推進研究所副代表理事)

 

 発表者全員が登壇したパネル座談会では、コーディネーターが放射線教育活動の継続や共有化、広がりを図っていくことの重要性などについてまとめた後、質疑応答を通して指導法の工夫や副読本に対する信頼や意義などについて理解を深めました。来場者からは、子供たちへの放射線教育に対する保護者の様子、動向、対応などについての質問や子供に合わせた教え方の要望、推進と反対との2つの視点からの説明を望むなどの意見が出ました。また、ある先生からは「入試に出ない放射線関係のことに4、5時間もかけて、親からクレームが来ないか気にかけていた」といった話も飛び出して、会場が和む場面もありました。

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